新幹線開業を2024年3月に控え、長野・岐阜からのアクセス向上のため中部縦貫自動車道も整備されつつある中、福井県内の各地域では観光施設の充実が図られている。県内随一の集客を誇る恐竜博物館へのアクセスとなる勝山ICからほど近い道の駅の敷地内に、「+ヒトマメ」と名前のつけられた店舗は地元の油揚げ製造会社(福井県は消費量全国一位)である山一食品の新規事業として整備。
報恩講を通じて大豆料理に親しみのある福井県。ここでは、県内外から訪れる人々に奥越の食文化のひとつである大豆食品の魅力を広め、人々の健康を担うために、油揚げだけではなく大豆を使った様々な料理やスイーツ、飲料が提供されています。
ひと冬のなかで何回も雪下ろしをする慣習がある雪深い勝山では、積雪に耐えられるための大きな屋根を持った家屋が山々のなかに拡がっている。「+ヒトマメ」は、その景観のひとつになることを目指した。地表面の雪と屋根雪が繋がり、雪の沈降によって軒先が破損することがないように軒先を高くした寄棟のワンボリュームは、雪が降り積もり建物が埋もれたときにも、深い軒下空間によって窓の安全性の確保と閉塞性の回避、回遊性のある動線を確保し、夏は日陰をつくりだす機能をもちあわせている。
内部は大きな気積をもつワンルームの空間が拡がる。床から2.8mの高さでつながる照明のベースを兼ねた座屈止めの鋼材によって、大空間を支える柱材は一般的な住宅のサイズでおさまり軽快な印象を与えている。
木質を活かしつつ、大豆の色調にあわせた塗装により柔らかな素材に包まれた内部では、大豆による体の内からひろがる健康と建築による心地良さにより他では得難いものが体験できる。山々に囲まれた川沿いの商業地にできた、この大きな屋根の建築は、この美しい四季のなか優しく人々を迎えている。
施工:タイセー、サイト建設、岡田木材
写真:市川靖史
山々に囲まれた地域
失われつつある原風景
やさしい色調で整えている